TOP 友の会とは? 最新情報 活動報告 本棚 Q & A リンク集
〜2003年 2004年 2005年 2006年 2007年

2006年12月16日

第15回 オランウータンと熱帯雨林を語る会

 日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会の主催で、同委員会代表の鈴木晃博士による現地調査状況の報告会が行われました。テーマは『オランウータンの今──最新の調査を終えて』。

 鈴木博士のキャンプ・カカップがあるクタイ国立公園の一帯は、石油、液化ガス、石炭といった天然資源に恵まれていることが仇となって、以前から開発要求とのせめぎ合いが激しい地域です。石油埋蔵量の限界が言われはじめた昨今では、石油に代わるエネルギー資源として石炭が再び注目されています。日本の企業は、質の悪い石炭を無害化する技術を有し、今まで採掘対象になっていなかった低品質炭の埋蔵地にも開発圧が高まっています。このような事情から、まだ調査の手が入っていない周辺地域も含めより広い範囲の調査が急務となり、鈴木博士は大半の時間を現地で活動されています。

 それに伴いオランウータン友の会の代表も現地との行き来が増え、また、ボランティアで運営している当会のスタッフの機動力不足という事情も重なり、今年は友の会として十分な活動を行うことができませんでした。会員のみなさまにはお詫び申し上げます。今回、鈴木博士のお話を伺える機会としては久しぶりということもあり、約40名ものおおぜいの方がご参加くださいました。上智大学の教室をお借りしての開催でしたが、うれしい誤算で椅子が足りないなど一部ご迷惑をお掛けする場面もありました。重ねてお詫び申し上げます。また、お手伝いくださったみなさま、当日ご入会くださったみなさま、ありがとうございました。

 ビデオを見ながら、前半は個々に観察された野生オランウータンの行動の解説がありました。乳離れの年齢といわれる7歳になる兄が新生児の弟と一緒にお乳を飲んでいる珍しいシーンや、奥の森から若いオスが出てきたのを山をはさんでどうやって察知したのか、迎えに出掛ける若いメスの不思議、子どもに手を貸しながら森の木々を移動する母子の様子なども見ることができました。厳格に親離れを強いる母親ばかりではなく、上の息子も含め親子3人で寝られる大きな巣を作る寛容な母親もいるとか、オスとメスが親密そうに一緒にいても交尾行動に至らないのは、血縁関係があって近親交配を避けているのではないかとか、目の届かない遠距離にいる他個体の動向は、おそらく巣を作る音などで察知しているのではないかといった興味深いお話が伺えました。

 ビデオの後半は、今年11月に行われたヘリコプターによる広域調査の映像で、1998年の山火事以降の森の回復状況、二次林の様子、上空からのオランウータンの巣の調査について説明していただきました。石炭開発の様相や伐採道路、盗伐材が積んである様子なども映っていました。北の方の石灰岩の山々に囲まれた地域には良い森が残っており、地上の調査でも新種の動植物が確認されていることから、このあたり一帯を国立公園にする陳情を鈴木博士は2000年から続けられています。

 山火事の後はじめてのヘリによる分布調査でしたが、上空からカウントできるのは時間が経ち茶色くなった巣だけであり、また、樹冠が閉じている森では中層に作られた巣は見えないことから、地上での調査データと照らし合わせて推定するのだそうです。今回は4日間に渡る調査でしたが、燃料が2時間しか持たないため飛べる範囲は限られてしまいます。鈴木博士のもとにはボルネオ島全体の分布調査の要望も来ているとのことです。大問題は資金ですが、ぜひ実現させていただきたいと願っています。

 そのあとは質疑応答に移り、オランウータンの食べ物や巣作り、個体識別の方法、野生オランウータンのトレースの難しさ、二次林の利用状況などについての質問がありました。
 ボルネオ島のオランウータンと熱帯雨林の存続のためには、石炭開発の動静と盗伐への対抗、既成事実となっている国立公園内の移民村との共存、そして山火事を出さない、延焼させないための有効な対策が緊急課題です。生物多様性の拠り所である熱帯雨林を守るための活動をご支援ください。

※ほんの一端ですが、当日の様子を動画でご覧いただけます。ここをクリックしてください