松本比呂-作詞作曲家・シンガー- エッセイ「大丈夫よ!」

大丈夫よ!

私の友人で『何いってんの。あったりまえじゃない。大丈夫よ!』という口癖の人がいる。
私はこの口癖が大好きで大好きで、弱っている時は特にこの言葉を聞きたくて何度も電話をしたり、会いにいったり、しばらく会えない時など、頭の中のカセットデッキで声質、間など忠実にイメージしながら、リプレイしたりしているのである。

この短い言葉の中に、なんとも言えない勇気づけられるものがあり、いざライブをやったりCDをつくろうという段には、とっくに答えがでているにも関わらず、優柔不断で臆病の私は、ぐずぐずと最後の決断を前に尻込みすることがあるのだが、そんなとき、これを聞くと背中をトンと叩かれて、頑張ってきま~す。と進めるのである。

これは、言葉も重要なのだが、もっと大事なのはその人の発する言葉であるからそれだけ絶大な効果があるような気がする。
いつも口先だけで、人によっていうことをコロコロ変える人にいわれてもピンとこないし、逆にいつも考え無しに平気、平気と言う人だと、尚更「だ、だいじょうぶだろうか...?何をもってして大丈夫とな?」と不安が増すに決まっている。
なんというか、大丈夫の言葉には『あなたがいうなら、大丈夫だろう』という不思議な確信が必要なのである。
先程のその人と話すとき感じるのは、「ああ、この人の話はなんて気持ちがこもってるんだろう」と、あとで思いだすことが多い。
だからこそ『何いってんの。あったりまえじゃない。大丈夫よ!』が生きたものになるのである。

ある時、頑張っているつもりなのにその割にはいまいち結果がだせず、鬱々とした日々を送っていたときに、別の友人からお礼のメールがきたことがあった。
「はて?何かしたっけ?」と読み進めていくうちに、『あのとき、あなたに言われた言葉で頑張れることができました。』と書いてあり、その言葉が書き添えてあった。
《あなたが頑張っている姿は絶対に誰か見ている!どんなにきつくても、それでも笑って続けているものの勝ち!》と。
その瞬間、私はドーッと涙腺が緩んでしまった。
正直、そんなことを言ったか記憶としては定かではないのだが、多分、今の自分より少しだけ元気なそのときの自分が発した言葉だったのだろう。
けれど、その一言にすっかりハマってしまったのである。
言葉が周りまわって自分を励ましに戻ってきたような気がして、不覚にも感動してしまった。
言葉を発する時は、《その人にとって、その人のために》という気持ちを少しでも、もてるかどうか。
そして、発した言葉がそのパワーをいかんなく発揮するには、その時の自分の心の状態がいかに大事なのかを今さらながら思うこのごろであった。

written by Hiro Matsumoto in 2003.01 (esssay No.03)

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