松本比呂-作詞作曲家・シンガー- エッセイ「わっからないんだよね〜」

わっからないんだよね~

ある時、付き合ってた人にさよならをいわれた。
さよならをいわれる前の期間というのは微妙にそういう予感に満ち満ちた日々で、私はそういう悶々とした状態の中で、例にもれず、くよくよと思い悩んでいた。
どうして、彼は冷めてしまったのだろうと。

ちょっとそのころ太めだったからとか、寝不足で目がクマ太郎だったからとか、それをかくすために、えらく化粧が濃かったからとか、あ~そういえば髪形が変なボヘミアンヘアだったから....、やっぱり若い子には......。
などという外見からはじまり、そういえばあの時、待ち合わせに遅刻したな~とか、もうちょっと遊びたい!とかいって、仕事で疲れてるのに帰るのを渋ったからかな..という行動の反省にはじまり、そしていよいよ自分の内面について思いは及び、よく見せようと本音をいわなかったからか...。
いやいや、いきなりこのまま全部のキャラをだしたら相手はびっくりしただろうし、でも、そういや~よく見せようとかなり不自然さもあったし.....。
(なんたって、彼はお付き合い!しているのである。めちゃめちゃVIP待遇で、私にとってもう、気分は祭りだ祭りだ!状態で自分らしさもへったくれもあったもんじゃなかった。)

そして、次の段階として<じゃあ、そもそも彼は私の何に魅かれたのか~>とハマリまくり、彼の内面の心理分析及び、精神状態、アンド生活状況まで、考えあぐねて、彼は私に一体、何を求めていたの~?!と考え、いよいよ、愛してもらえない自分は何てちっぽけな存在なんだ~と最終ヘコみに到達したあたりで、クライマックスの別れのシーンであった。(ふ~っ)

もう、聞きたいことが山のようにある私は、準備万端、いくわよオーラをだしていた。
この恋がだめになった原因をつきとめなきゃ、先にいけないよ、あたしゃ~状態だった。

すると、彼はなんと、ちょっと困った顔をしながら、でもちょっとヒョウヒョウとした感じで、『いや~、おれも君の納得のいく答えを出そうと、いろいろ考えたんだよ。どうして冷めちゃったのかって。今でも君のこと、友達としては、好きだし何が嫌ってこともないんだよ。でも、男と女としては終わりかな~と』などと、のらくらしたことを言った。
なんて、ズルイ奴だ。きっともう、他に好きな人ができたんじゃ...?!とお定まりのセリフを言おうとしたときに、かれがひとことポカンとした表情で

『ほんと、なんでかね~。わっからないんだよね~。』と、私にむかってというより、腕をくんで自分に問うようにいったのである。

なんだか、その言葉と動作があまりにも自然だったので、私はおもわず納得してしまったのである。そうか、わっからないんだ...と。
本人にわからないものが、私にわかるはずないと、なんか急に気がぬけたのである。
どんなに、問い詰めても、いろいろ分析しても、この冷めてく気持ちに対して、『わっからないんだよね~』のほうが、なんかとってもリアリテイーがあって、充分伝わった気がした。私も思わず、『そうか、わっからないんだ...。』と、彼に負けず劣らずポカンとした顔で答えてしまったのである。そもそも恋がはじまるのだって、なんでかわからないけど、魅かれあうわけで、そこにそんなに理由を求める人はいないのだから、恋の終わりもそう考えるとちょっとは楽なのかもしれない。

結局その別れ話は、いままでのパターンとは全然違っていて、なんかドロドロというよりホワ~という、なんか間抜けで、でもどこか暖かみのある風景で幕を閉じた。

written by Hiro Matsumoto in 2001.07 (esssay No.01)

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