2002年4月28日 夜の部
■上演内容
一.「あやめ浴衣」
振付=藤の会
美術=坂東玉三郎 装置=中嶋正留
出演予定(順不同) 立方= 中村時蔵、中村芝雀、中村福助、中村扇雀、片岡孝太郎、尾上菊之助、中村翫雀、中 村橋之助、中村信二郎、市川染五郎、尾上辰之助、市川新之助
唄 = 片岡我當、片岡秀太郎、尾上松助、市村家橘ほか
三味線= 市村萬次郎、片岡芦燕ほか
一.模擬店「あやめ祭り」
監修 = 中村鴈治郎
美術 = 松本幸四郎
会員は、今回あつらえるお揃いの浴衣を着用。全館、あやめ祭りの趣向となります。今回のオリジナル商品は、浴衣、団扇などを予定。
俳優ギャラリー(隈取、書画、その他俳優の出品物などの展示販売)デジタル写真館、ミニ・シアターなど検討中。
一.お楽しみ抽選会
一.「乗合船恵方萬歳」 常磐津連中(常磐津一巴太夫連中)
振付 = 藤間勘十郎
出演予定 = (太 夫)中村富十郎、(才 造)中村吉右衛門、(通 人)中村梅玉、(大 工)片岡仁左衛門、(芸 者)中村松江改め中村魁春、(白酒売)中村雀右衛門、(女船頭)中村芝翫、
一.天地会「新版歌祭文ー野崎村」
出演予定 = (お光)市川團十郎、(お染)市川左團次、(久松)水谷八重子(?)、尾上菊五郎、片岡仁左衛門、坂東彦三郎(?)、坂東三津五郎、中村歌昇、中村芝雀、中村橋之助ほか
(竹本)澤村田之助、中村東蔵
市川 左團次特別インタビュー
すいません。お食事中のところ。最近のご活躍と、俳優祭についてお話をうかがいに参りました 。
左團次 (ジュルジュルジュルジュル……。シャカシャカシャカ……)ああ、どうぞ。
ええっと、ビデオも回っているのですが、始めてよろしいのでしょうか。
左團次 どうぞ。いいですよ。
最近、左團次さんの大きな芝居を見せていただくことが多くて、特に2月の歌舞伎座の白太夫(『菅原伝授手習鑑』の「賀の祝」)は、感動したという声をたくさん聞きました。
左團次 そうですか。菊五郎劇団ではあんまり出ないお芝居だったんですよね。松緑のおじさんとか、なくなられた先代の団十郎のおじさんとか、ずいぶんなさってるんだけれど、その頃は僕も若かったもんだから、遊ぶほうが忙しくてね――。全然知らないお芝居。で、台本(ほん)もらったら、いつもと違って台詞がいっぱいある。憶えきれないんじゃないかと、それだけが心配だったんですけどね。ふだんは三言、五言くらいしかしゃべらせてもらえないでしょ。それが突然十言、三十言になったりすると、頭が軽石になっちゃって、憶え切れない。心臓が悪くて3年前に手術をしたんだけれど、心臓は外からは誰にもわからないじゃないですか。だから、また悪くなったから休みますっていうのもしゃくにさわるし。とにかく、台詞があんまり憶えられないもんだから、先に断っておこうかと思ってたんですけどね。
いや、照れ隠しはそのくらいにしていただいて……。飄々としたイメージのある左團次さんがなさると、子どもの桜丸が死を覚悟しているのに何もできない、という辛い父親の心情が、なおのこと悲しく感じられました。
左團次 上手いこといいますね。口から先に生まれてきたね(笑)。白太夫は、性根は強い人なんだろうと思うんですね。ただ、どの役をやらせてもらうときでもそうなんだけど、僕の柄とか、見た目っていうのがあるじゃないですか。大きい、っていうね。それとのバランスで、あんまり強くなるのはどうかと。お客さんが「見た」ときの印象を考えなければならないのかな、と。強い人、というのが表に出すぎてもいけないんだろうと思うし。そういうところが難しいのかな。そんな弱いお父さんじゃないと思うんですよ。でも、桜丸が死ぬために戻ってきたのも知っているし、一方で、残りの二人の息子(梅王丸、松王丸)は、太宰府へ行くだの、勘当してくれだの言ってるわけで、心中複雑ではあるんでしょうかね。そういう心理描写が、まだまだ難しいですね。
「道明寺」の宿禰太郎はいかがでしたか。白太夫とは対極の赤っ面の悪役。
左團次 このタイプの役はよくやる役ですから、戸惑うことはないんじゃないでしょうか。ま、台詞が覚えられりゃ、なんでもないんですけど。
主役ではないんだけれど、その人を中心に芝居が動く役、という意味では『三人吉三』の土左衛門伝吉も大好評でした(平成12年2月歌舞伎座)。左團次さんにとって、入りやすい役と、そうではない役というのがあるのでしょうか。
左團次 『魚屋宗五郎』のお父っつぁんとかね。ああいう強い役は、敵役ではないけれど、入りやすいっていうのか、やりやすいっていうところはあるかもしれませんね。でも、敵役といい人だったら、そりゃあもう敵役の方がやりやすいですよ。とにかく、舞台へ出やすいというのがいちばん。僕の場合でいえば敵役。しいて言えば武張った立ち役かな。今月(3月歌舞伎座公演)の『俊寛』の瀬尾がそうだし、『十六夜清心』の白蓮も、「実は大盗賊で……」という裏がある役なので、台詞は言いやすいでしょう。ま、見た目はダメでしょうけど。
俳優祭でなさってきた役はいかがですか? 本公演とは別の意味で感動させられる名演、怪演がたくさんありました。
左團次 ああ、俳優祭はね、くたびれます。ああいうもんだから、おちゃらけちゃってもいいのかもしれないんだけれど、真面目にやって可笑しくなるような役を振り当てていただいているんだから、あんまりおちゃらけちゃってもいけないんじゃないかと思うんですね。みなさん、一応、真面目にやってらっしゃるし。でも、一日のことでしょ。稽古は荒いし(笑)、みんな要らざる神経を使ってやってらっしゃるから、みなさんもくたびれるんじゃないでしょうかね。
抱腹絶倒の名演が数々ありました。芝雀さんの「助六」を相手になさった揚巻(昭和61年・第24 回)、「西遊記」の鯨魔女王(昭和63年・第25回)、「裏表芝居賑」のお蔦(平成4年・第27回)、「すし屋」のお里(平成7年・第29回)、前回(平成12年・第31回)の「タイタニック」では演歌歌手として登場し、「孫」を熱唱されています。いずれも真剣さの賜物だ、と。
左團次 そりゃあもう、いつも真剣ですよ。一所懸命。でも、残酷な話もあってね。「西遊記」で、ふだんの舞台でも立ち回りで活躍されていたうさぎさん(現・坂東橘太郎)とみの虫さん(現・坂東三津之助)が、京劇風の立ち回りをなさったんです。そりゃあもう見事なものでした。僕がやったのはヘンなバアサン、ああ、鯨魔女王ね。つくりもののタレたオッパイつけて、それをぶん回すっていうヘンな役でした。で、NHKが収録に来てたんですが、当時、まだ松緑のおじさんがいらっしゃるころで、「ああ、欣也(左團次さんの本名)のところなんか絶対カットだよ。時間がねえんだから、欣也のところがカットされて、ふたりの立ち回りがパッパッパッて流れるよ」と言ってらした。うさぎさんも、親戚中に「僕がこういう立ち回りをするんで、テレビ中継をぜひ見てください」って言ったわけですよ。ところが、オッパイぶん回してるほうばっかり映って、立ち回りがカットされちゃった――なんてこともありましたねぇ。NHKも大変なもん流したもんですよ。
今回もそれを超える名演を見せていただけるのではないかと期待しております。役はお決まりですか。
左團次 天地会で『野崎村』のお染をやらせていただくんですが、どうなるんですか、僕にもわかりません。
見どころは――。
左團次 『野崎村』は、本公演でも久作で出していただいているから、だいたいのところはわかっているんだけど、見てないところもあるでしょう。だから、ビデオを見せていただいて、どうしようかって考えているところです。 ただね、女形をさせていただくと、本性を出すようで怖いんですけどね。
というと――?
左團次 いや、僕は心の中というか、根は女性なんですよ。
は?
左團次 いや、僕が全国的にホモだというのは有名な話なんですけどね。そういう陰の部分を表に出すのが怖いですね。 ま、久松さまぁ、と追いかける女心が出りゃあいいわけですから、ふだん、男の人を追いかけている気持ちのまんまやればいいんだろうと思っているんですが。
はあ。
左團次 僕の本性っていうんですか、私生活が垣間見えるかもしれませんから、それを楽しみにしていただこうか、と。そんなもん、楽しみにされても困るか。とにかく、顔はよくて姿はいいですから、そこは問題ないと思います。ただ、声がダメですからね。これでいい声だったら非のうちどころがないお染なんですけど。ま、見た目の美しさでは誰にも負けないお染になるでしょう。ええ。
ええっと、とにかくとても楽しみにしております。模擬店の方でも、いつもどおりにロビーでもご活躍いただけるのではないかと期待しております。
左團次 いや、僕はそういうことはとてもとても。露天商みたいなことはできません。やったこともないですし、僕は舞台に専念して、美しいお染を……。
わかりました。はい、絶世の美女ですね。もういいです。ありがとうございました。
(インタビュー後に)最初はいい話だったのに、結局、最後ははぐらかされてしまいました(もちろん、俳優祭当日は、模擬店にもご登場になります。絶対に)。十八番のホモ・ジョークも飛び出してしまったので、左團次さんをあまりご存じない方は混乱されたかもしれません。が、おとぼけは、根っこにある生真面目さの裏返しであろうことは、舞台をご覧になればわかっていただけるはず。本公演の大きなわき役の熱演と俳優祭での怪演。その両方で、市川左團次という俳優の大きさを堪能いただければと思います。
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